ペルソナ・ノン・グラータ

寝返りなんか“致しません!”
私は、後期高齢世代の“ルーキー”2年目のシーズンを迎えるが、若かりし頃からの習慣はなかなか変えられない。ことの良し悪し別にしても、いったん眠りにつくと、冬眠中の熊の如く、じっと動かずにいる。
一晩中、テレビを付けっぱなしにしてもいつの間にか真っ暗、朝が来るまで画面は消えたままだ。寝返りしようものならすぐさま、“今すぐお電話を”と絶叫するCMが顔を出す。テレビに搭載のセンサーカメラは“動かぬ証拠”を握って離さない。「家政婦はミタ」のだ。かといって、寝起きが悪いわけではなく、目が覚めるやホッカホカのご飯と湯気が香るみそ汁を頬張っておる。
寝返りを打つとは、仰向けから横向きか、うつ伏せになって、仰向けに戻る一連の動作だが、うつ伏せのままでは息苦しさに悶えてたまらずに飛び起きる。睡眠時無呼吸症候群がいつ始まっても不思議ではない。
逆に、寝返りを打てなければ、浅い眠りの“レム睡眠“から深い眠りの”ノンレム睡眠“への上昇気流にうまく乗りきれない。いずれにしろ、睡眠時のいびきと10秒以上の無呼吸の発生は、酸化ストレスを増大し、心不全や狭心症の一因となる。
そんな心配をよそに、安眠したいのであれば非日常化したと飲酒業務の際、マイクの使い過ぎ(前夜の酒が匂う)、通販ベルトを緩め過ぎ(ズボンが落ちる)、ダンスを踊って“触り過ぎ” (痴漢条例)はNGだろう。
レムとノンレムの評価基準は、脳波の周波数成分がθ波かδ波かの違いだ。スマートウォッチ搭載の加速度センサーには、それなりに限界がある。鹿児島県種子島から打ち上げたGPS探査用ロケット「みちびき5号」機の墜落ともあながち無関係ではない。
とはいえ、寝返り現象は、無意識に生じる不随意運動であって、みずからの意思で、コントロールは不可能だ。今、なぜか?介護用の新商品「全自動寝返り支援ベッド」が気になって眠れずにいる(笑)。
警報級の警報に喝!
昨年、9日間連続のフルタイム勤務を終えて暦のうえでは3連休を迎えたが、⒒月3日「文化の日」だけが待望久しい安息日だ。
今宵こそ、眠れるだけ眠るつもりでベッドに就いていた。
だが、私が眠りに入るや要望はすぐにも却下され、あくる朝一番に叩き起こされた。竜巻の到来を予告する木琴音が、“ピポペポポン”と鳴り、テロップに恐怖を掻き立てられる。センサーカメラの悪戯ではなく、電源ONの“縛り”はキツイが、緊急警報を自動的に映像化するポップアップ画面と同じようなカラクリが発覚した。
私にとっては、まさに「寝耳に水」で、カーテンの隙間から戸外を見渡すと、どんよりした空気が立ち込め、無風でひっそりと静まり返っている。嵐の前の静けさか、それともフェイクニュースか?
秋の季節は、週末に限って雨の壁にぶち当たる。ところが、今日は「晴れの特異日」というだけに、奇跡とさえ思えるほど天候が回復に向かう。
市指定のポリ袋に入れた生ごみをネットボックスへ運ぼうとガレージ・シャッターを上げた瞬間だった。今度は「ブオーンブブオーンン」と耳をつんざくような轟音が鳴り響いた。まるで、山伏が魔除けに法螺貝を吹いているかのようだ。公園脇の道端に発信源を見つけた。があり、摩天楼にも見える銀杏の樹々から一斉に散った落ち葉に向かってブローワー(送風機)が吠えていた。
露わになった木肌を見て、こんなコントを思いつく。「銀杏(ぎんなん)は皮をむいて裸にするが、飽食は胃腸(イチョウ)にバレる(拍手)。」
先ほどらいの冷たい雨が嘘のように、空一面が明るくなった。役目を果たした雷雲は、「してやった」と満面の笑みを浮かべる。
一瞬の虚を突いた。線状降水帯の的中率は10%に過ぎないというのに突然の雷警報に騙され、またしても、東北地方はとか日本海沿岸はとか、一括りに扱う警報の罠に、ものの見事に嵌まった。落雷は一度もなく直射日光がやたら眩しかった。
拙速に過ぎる存立危機事態宣言
さて、女性初の高市早苗新首相が誕生し、働いて、働いて、働いて、働いて参りますと言いなさる。このフレーズがヒットして、流行語大賞に輝いた。早くも、国民のアイドル、スターになった感がある。あの懐かしい「何度も~何度も~繰り返す母」(秋桜山口百恵)」が号泣している。
高齢化としばし戦う団塊勇者は248万人にのぼる(2024年総務省集計)。けれども、「働けど働けど我が暮らし楽にならざり・・・・(石川啄木)」をリアルにやり過ぎた。我々は時間外手当や働き方改革とは、縁もゆかりもない世代だ。
それでも、“なんということでしょう!”新首相の「原稿読みを極力排し着やせした姿には好感が持てるし、トランプ大統領の関税カードには、南鳥島沖に眠るレアアースをチラつかせながら交渉したであろう。
綻(ほころ)びが出始めたのは、新執行部に裏金を不記載とした議員の起用からである。「傷物」と紹介し、野党やマスコミに降ってわいたような揶揄のチャンスを与えた。
打ち気満々の打者にど真ん中の絶好球を投じてしまった。
さらに、「台湾有事が集団的自衛権の行使を認める存立危機事態になりうる」との答弁が追い打ちをかけ、中国の大阪総領事が、「汚い首は斬ってやるしかない」とSNSに投稿し、中国の世論工作が本格化的する一方、中国軍空母「遼寧」から飛び立った戦闘機がレーダー照射による威嚇訓練を始めた。沖縄諸島の海岸線すれすれを通る“危険球”だ。
それにしても、就任早々「台湾有事」を口に出す度胸に感服しきり。この何気ない一言に乾杯!「ハッとしてグー」アレッと漏れる。
ただし前言を翻せない法則(禁反言)に従えば有事発言の撤回は許されない。以下、新聞の社説から、ビタミン成分のみ表示する。
(A) 中国が台湾を海上封鎖、米軍に武力を行使、
日本は“対米支援”を行う。
(B) 存立危機事態とは、「国民の生命、自由など
の権利が覆される」と定める。
(C) 内閣総理大臣は、武力攻撃および存立危機
事態に際して、自衛隊出動を命ずる。
(D) 国会の事前承認のもと、自衛隊は「武力の行
使」の三要件を満たす場合にのみ出動できる。
(読売新聞のインタビュー記事より)
中国は、この条文を無視して、対日・対首相非難を強め、日本産水産物の輸入、日本へ留学や渡航に、経済的な報復措置を発動したが、本気度はまだ不明だ。よりにもよって、台湾有事発言をきっかけに、習近平国家主席の側近が逆上するとは、痛い腹を探られたからではなく、触れたくもない「急所を突いた」からだ。
しかし、僕らより半分若い30代前半~50代の前半世代は存立危機事態が「ウクライナの二の舞になりかねないとまで考えが及ばぬ。
毎日新聞の世論調査で、台湾有事に関する首相の答弁に「問題があったとは思わない」が50%と半数を占め、「問題があったと思う」を大きくひき離した。
なにも考えないで“のほほ~ん”と暮しているからだ、“ボー”っと生きてんじゃねーよ!
日本は、台湾有事ばかりではなく、北朝鮮のミサイル、ロシアの北方領土などと、軍事大国に囲まれた地政学的リスクを負っている。戦争放棄世代は、理解に苦しむところだ。
ガソリンの暫定税率が廃止されるなか、灯油価格は暴走し続ける。後期高齢者の称号は正直言って有難迷惑。社会保険料や介護保険料が増えるだけで、遣らずぼったくりも同然だ。
ありとあらゆる物価の高騰は、国民や医療保険制度を疲弊させ、存立危機事態になりうる。
衝動的で昂奮しやすい猛獣
時を同じくして、相次ぐ“熊”被害が世間を震撼させた。ツキノワグマのポストシーズンは、飽食に明け暮れる。時には、夜間にも出没し、カラオケ酒場へ向う(県北市)。クマの嗅覚は動物界最強を誇り、英才教育で磨いた動物的勘を生かして、30㎏を超す鉄格子の箱罠や電気柵をいとも簡単にすり抜ける。
県北、県南の遠方より来たる患者さんには、話題沸騰中、目撃者だらけだ。「毎日毎日」、「うじゃうじゃ」はざら、「黄色い糞は富有柿、赤いは熟した渋柿だ」、「大群が隣町へ引っ越した」、「渓流に沿ってゾロゾロ」、「波をすいすい掻き分け」となど、実に臨場感に溢れる。高速道路をものともせず、県境を越えたのは、環境省の標識を付けた山形県産のクマだった。
「玄関に置き土産、くそ(糞)!」「肥料を食って中毒死」とか、42本の巨大歯と10㎝の爪で食いちぎり、「顔や胴体のない皮だけの遺体」。稲川淳二ばりの怖い話だ。噂では、人口膝関節のロットナンバーから、身元が判明したらしい。
ここでクイズ:WHO集計、人間を襲う動物の1位は?熊はランク外だ(解答は文末)。
なんと、体脂肪30%台の超肥満体が、最高時速60キロで走り1日に50kmも移動する。まったくもって羨ましい限りだ。そんななか、我が家に近い太平川を泳ぐ姿がどアップされ、目と鼻の先にある公園にも出没した。銀杏の実を嗅ぎつけたに違いない。町内は皆、ロックダウン状態で外出規制を掛けている。もう他人事では済まされない、いっそ心中するつもりでクマさんと共生しよう。
牛島地区の町内会は、熊の襲撃に備え、動画や画像をライブ配信している。紅葉や酒造蔵へ向かう道は通行止め、旅館やホテルは、キャンセル地獄だ。なにも農作物ばかりでない、インバウンド需要や観光資源を食い荒らす。
困ったものだが、クマを解体した猟師によれば、「胃は空っぽで、やせ細っている」そうだ。
食糧難が諸悪の根源で、熊の不冬眠も現実味を帯びる。そこで、ブラックジョークを発出する。
来訪した盛岡市の課長代理が、「分室の周りに熊がいますが、遠慮なさらずにお越しください」と前代未聞の社交辞令だ。レザーショップの社長「今年は熊の当たり年、大量入荷しました」と㏚。
毛皮は温かそうだが、背筋が凍る。 そこで、熊の擁護派と猟師が押し問答を繰り返す。
擁護派「なぜ射殺するの!山奥へ返せば!」
猟師「ブナが不作で街中に来るからだ!」
擁護派「エサを与えて保護するべきよ!」
猟師「それでは、あなたが飼育なされば!」
擁護派「善は急げよ、餌になる物を探します」
猟師「心配ご無用、手当たり次第に召しあがります」
忘れもしない遠い昔、犬の飼育室で大事件発生!実験班の新卒医が、30kg強の大型犬を鉄格子の檻(オリ)から引きずり出した途端、“ウルルガルル“と唸り始め、敵意むき出しで襲いかかった。恐怖に怯えた彼は、みずから檻の中へ突進し、内側から鍵をかけて、“ウーウー(SOSの意)ガウウー”と応戦した。動物本能が丸出しで思い出すたび“プッと“吹き出し笑いも漏れる。クマの遠吠え「ウォウォーン」が聞こえたら、“檻ならぬ箱罠”へGO!
北東北のクマ被害は甚大で、パニック障害をを起こすほど深刻だ。人間を敵や獲物とし危害を加えたからは、繁殖と駆除の「いたちごっこ」を絶ち切って、猛獣化した熊だけを葬り去るだけだ。
米国では、放射線で不妊化したオスを使って、「ラセンウジバエ」を駆除したが、巨体のクマには、薬剤を用いた化学的去勢も不可能だ。専門家は、「緩衝帯(ゾーニング)」の設置、定数管理の見直しなどを提唱している。
こうしたなか、雌の働きバチを押し退け、雄バチの出番が回って来た。ドローンに進化し、ブンブン飛び回ってクマの天敵になりそうだ。
米国モンタナ大学の研究によると、ドローンを活用したクマの追跡、監視、撃退、駆除は有効で、グリズリー(ハイイログマ)を91%も撃退した。大気中の炭酸ガスを削減する「食品ロスの飼料化」は、クマの餌対策としても始まった。
地球沸騰と異常気象が加速するなか、通販CMとワンパターンの天気予報には、うんざりだ。
使い過ぎて壊れたリモコンの修理はそう簡単に突破できない。
おわりに
些細な答弁にブチ切れて罵詈雑言を吐く総領事も、ポケットに両手を突っ込む高官も、脅しまがいの反省なき警報も、身近な脅威となった猛獣クマも、感染源となる蚊(質問の解答)も、今となっては、「ペルソナ・ノン・グラータ」の一員
と言っても過言ではない。
注)「ペルソナ・ノン・グラータ」=招かれざる客(映画の題名)
人種問題をテーマにした社会派ドラマで、「娘が連れてきた婚約者が家族にとって想定外の客だった」という意味合いのタイトル。
自分の周りの出来事であってほしくないこと、あって困ることは人だけではない。
【著者プロフィール】
門脇謙(かどわき けん)
高知県生まれ。/中央大学附属高校卒、秋田大学医学部大学院卒。
秋田大学第二内科入局にて助手、講師、臨床教授を務めたのち、秋田県成人病医療センター赴任。科長、部長、副センター長、センター長を務め、平成27年〜秋田県立脳血管研究センター循環器内科、社会保険診療報酬支払基金秋田審査委員会事務局 審査調整役、全国審査調整役運営委員会・東北ブロック代表に就任。
